JevとWebデザインの接点|Webデザイナーのためのシステム1・2 入門

JevとWebデザインの接点Webデザイナーのためのシステム1・2 入門

2026年9月、元OpenAIの研究者が立ち上げたTypeSafe AIというスタートアップが、「Jev(ジェブ)」というAIモデルを発表しました。文章を書かず「判断」だけを返す、という変わったモデルです。

このJevが自らを「System One model(システム1モデル)」と名乗ったことで、「システム1・システム2」という言葉が、AI界隈で改めて目にする機会が増えています。

システム1・システム2は、もともと心理学者ダニエル・カーネマンが広めた「人の思考には速い直感と遅い熟慮の2つがある」という考え方です。今回AI用語として流れてきた言葉ですが、Webデザイナーにとっては「なぜこの画面は直感で使えるのか」「なぜこの画面は迷うのか」を説明する、とても便利な道具になります。

この記事では、①システム1・システム2の定義 ②Jevとの関係 ③システム1を味方にする5つの設計ポイント ④あえてシステム2を起動させる場面 ⑤現場での使い方、の順で解説していきます。理論はご存じの方は、第3章の設計ポイントからご覧ください。

目次

システム1・システム2とは?カーネマンの理論をデザイナー向けに整理

まずは定義を、デザインに必要な範囲に絞って押さえておきます。ここが曖昧だと、あとの「直感的なUI」の話がすべて印象論になってしまうためです。

システム1=速い直感、システム2=遅い熟慮(比較表)

システム1とは、速く・自動的に・ほとんど努力なしに働く直感の思考です。システム2とは、注意と努力を必要とする、遅くて意識的な熟慮の思考です。

人間は1日に最大で3万5,000回もの決断を下していると言われていますが、そのうちの約95%は「システム1(直感・速い思考)」によって無意識のうちに処理されています。

例えば、赤信号を見てブレーキを踏む、知人の顔を瞬時に識別する、簡単な計算(1+1など)、見慣れたアイコンの意味が一瞬でわかるのもシステム1の働きです。

一方で、複雑な計算(17×24など)、初めて行く場所のルート案内、確定申告の書類作成のような立ち止まって思考が必要な場面では、システム2が呼び出されます。

人間の脳は、体重のわずか2%ほどの重さしかありませんが、体全体の約20%のエネルギーを消費する非常に燃費の悪い臓器です。もし「朝起きてどちらの足からベッドを降りるか」「歯磨き粉を何センチ出すか」といったすべての行動を熟慮の思考であるシステム2で深く考えて決めていたら、脳はすぐにエネルギー切れ(認知資源の枯渇)を起こしてしまいますし、時間もかかってしまいます。そのため、脳は日常の判断のほとんどを自動的・直感の思考であるシステム1に任せることで、エネルギーを節約(省エネモード化)しているのです。

表で比較して整理すると、次のようになります。

項目システム1(速い思考)システム2(遅い思考)
速度一瞬・自動遅い・意識的
努力ほぼ不要集中と注意が必要
得意なことパターン認識・慣れた操作・第一印象計算・比較検討・例外の処理
弱点思い込み・バイアスに流されやすい疲れる・同時に多くを処理できない
画面での例見慣れたボタンを押す・青い下線をリンクと判断する料金プランを比較する・利用規約を読む・削除の確認をする

ポイントは、システム2が「賢い」わけでも、システム1が「雑」なわけでもないことです。どちらが良い悪いではなく、画面のどこでどちらを使わせるかが設計の問題になります。

※この2つのシステムは、心理学者ダニエル・カーネマン(2002年ノーベル経済学賞)が2011年の著書『ファスト&スロー』で広めた考え方です。カーネマン自身、2つのシステムを「頭の中の2人の登場人物」という比喩として扱っていて、脳のどこかにそれぞれの場所があるわけではありません。人の振る舞いを説明する道具として使うのが正確です。

デザインとの接点は「認知的容易性」と「認知負荷」

このシステム1,2理論がなぜデザインと関係あるか?をここでは考えていきます。システム1,2理論とデザインをつなぐ鍵になる言葉が「認知的容易性(cognitive ease)」です。

カーネマンは、頭の状態を「楽(Easy)」から「緊張(Strained)」まで目盛りのある1つのダイヤルにたとえています。針が「楽」を指しているあいだが「認知的容易性」の状態で、システム1が滑らかに動いています。

針が「緊張」側へ振れた状態が「認知的緊張(cognitive strain)」で、これは「何か問題がある、システム2を動員せよ」という合図です。

針を緊張側へ振らせるのは、読みにくい・見慣れない・つじつまが合わない、といった違和感です。逆に、見やすい表示や見慣れた形は、針を楽側にとどめます。

デザイナーにとってなじみ深いのは、これを「認知負荷」と呼ぶ言い方でしょう。少しラフな言い方をすれば認知的緊張は、現場で「認知負荷が高い」と言うときの状態とほぼ重なるので、この記事ではそう読み替えて読み進めてもらって構いません(※厳密には、認知負荷は「作業が頭に求める負担の量」を指す別の研究系統の言葉ですが、イメージ的につかみやすいので読み替えてOKです)。


なぜいま「システム1」が話題?AIモデルJevとWebデザインの関係

ここまでが心理学の話でした。では、なぜ2026年の秋に、AIモデルがこの言葉を名乗ったのでしょうか。

Jevを知ることは、話題を押さえる以上の意味があります。「判断」が安く速く手に入るようになると、AIを組み込んだサービスの流れの設計が変わり、その流れの中で人が判断する場所を作るのがデザイナーの仕事になるためです。順に見ていきます。

Jevとは:文章を書かず「判断」だけを返すAIモデル

Jevは、TypeSafe AIが2026年9月15日に早期アクセスの提供を始めたAIモデルです。創業者のディオゴ・アルメイダ氏は元OpenAIの研究者で、ChatGPTの前身にあたるInstructGPT論文の共著者の1人だと報じられています。

ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)との違いを、公式ブログの記載に沿って整理すると次のとおりです。

  • 文章を生成しない:状況の説明と「選べる選択肢のリスト」を渡すと、どれを選ぶかという判断を、あらかじめ型が決まった構造化データで返します。LLMのように1語ずつ文章を紡がないため、TypeSafe AIは「型のエラーを起こさない」「ハルシネーション(もっともらしい嘘)ができない」と説明しています。※ただしこれは「決めた形式から外れた出力が出ない」という意味であり、個々の判断が正しいことを保証するものではない、と受け取っておく必要があります。
  • 確率と確信度を返す:出力の型は3種類あります。選択肢から選ぶ「Choice」と、数直線上の位置を返す「Score」は、選択肢ごとの確率の分布と、その分布の偏りから計算した0〜1の確信度を返します。はい・いいえで答える「Noul」は、「はい」である確率を返します(Noulには独立した確信度はありません)。TypeSafe AIは確率が校正(calibrated)されていると説明していますが、確信度は分布の偏りを表す指標であり、「確信度0.9=その判断が90%の確率で正しい」と読めるものではありません。
  • 速くて安い:応答時間は70〜500ミリ秒で、最先端のLLMより40〜200倍速いとしています(自社評価)。料金は入力100万トークンあたり0.042ドル、出力は無料です。
  • 向かない用途がある:チャットボット・コパイロット・コーディングエージェントのように、人が文章を読みながらやりとりする用途では引き続きLLMが必要だ、と公式ブログは位置づけています。Jevは文章生成を手放す代わりに、速さと確信度を得たモデルです。

ITmediaのインタビュー記事では、アルメイダ氏がJevを「スマートなif文だと考えてほしい」と表現しています。確信度が一定以上ならそのまま処理に回し、それ未満ならLLMや人間に送る、という条件分岐に組み込んで使う想定です。

速くて安い「判断」が手に入ると、体験の流れの設計が変わる

Jevのようなモデルが意味を持つのは、「判断」にかかる時間と値段が桁で下がる点です。応答は70〜500ミリ秒、料金は入力100万トークンあたり0.042ドルで出力は無料(いずれもTypeSafe AIの公表値)。特にこの速さの点がサービス設計においては、特にUXの設計で意味を持ちます。

「スマートなif文」と言われているように条件分岐が必要な箇所で、確信度が高い判断はその場で高速判断で処理し、確信度が低い判断は大きなモデルや人に回す、という振り分けです。うまく割り当てられれば、ユーザーの待ち時間は短くなり、運用コストも下がります。応答の速さはそれ自体がユーザー体験の一部なので、この割り当てはインフラの都合であると同時に、UXの設計でもあります。

たとえば、問い合わせフォームを考えてみます。
従来は、送信された内容を担当者が読んで「営業部へ」「サポートへ」「よくある質問で解決」と振り分けていました。この裏側の振り分けの処理にJevのような判断モデルを置くと、送信ボタンが押された瞬間に「この問い合わせはどの窓口か」「よくある質問で解決できる内容か」を判定できます。

確信度が高ければ、ユーザーには送信完了と同時に該当する解説ページを案内し、担当者への転送も自動で済ませます。
確信度が低ければ、無理に判定せず、担当者が読む列に回します。ユーザーから見ると、待たされる場面が「担当者が読むまで」から「その場で」に変わります。判定にかかるのは1秒未満なので、送信完了画面の表示を遅らせることもありません。

この組み立てでは、システム1とシステム2の分担がそのまま現れます。定型の振り分けは機械が即答し、判断に迷う問い合わせだけが、人の熟慮に回る。デザイナーが決めるのは、確信度が低かったときにユーザーへ何を見せるか(ex:「担当者が確認して〇日以内に返信します」)と、自動案内が外れていたときに人へつなぎ直す導線です。

デザイナーに関係する理由:振り分けたあとの2本の道を作る

問い合わせフォームの例を、もう少しだけ続けます。問い合わせフォームを送信した後(裏側では、判断モデルが振り分けを終えたあと)、ユーザーの前には2本の道ができています。

1本目は、確信度が高くて即座に処理された道です。送信完了と同時に解説ページが案内される。ここでユーザーに求められるのは、案内を一瞬で理解して読み始めることだけです。案内文が長かったり、リンクがどこにあるかわかりにくかったりすれば、判定が速くても体験は速くなりません。この道は、ユーザーがシステム1のまま通り抜けられるように作る必要があります。

2本目は、確信度が低くて人に回された道です。「担当者が確認して〇日以内に返信します」と伝え、場合によっては「次のどれに近いですか」と本人に選んでもらう。ここでは、ユーザーに一度立ち止まって考えてもらいます。急がせず、選択肢を見やすく並べ、あとから補足できることを示す。この道は、システム2を起動しやすいように作ります。

判断モデルが決めるのは分岐だけで、2本の道の歩きやすさを決めるのはデザイナーです。そしてこの「速い道と遅い道を作り分ける」仕事は、実はAIが間にいなくても、あらゆる画面で発生しています。次章からはJevを離れ、Webデザイン全般でこの速い道、遅い道という2本の道をどう作るかを見ていきます。まずは1本目、ユーザーをシステム1のまま目的地まで運ぶ設計からです。


Webデザインでシステム1を味方にする5つの設計ポイント(直感的なUI)

ここからはまず「ユーザーをシステム1のまま目的地まで運ぶ」ための設計を、デザイナーがすでに知っている法則と結びつけて5つに整理します。

それぞれに、うっかりシステム2を呼び出してしまうNG例も添えています。

ポイント1:第一印象は50ミリ秒で決まる:視覚階層を最初に設計する

Webページの見た目の印象は、読む前に決まっている。

カールトン大学のGitte Lindgaard氏らが2006年に発表した研究では、Webページを50ミリ秒(0.05秒)だけ見せた場合の魅力の評価が、500ミリ秒見せた場合の評価と高く相関しました。つまり人は、内容を読む前に、見た目だけで「良さそう」「怪しい」を判断しています。これはシステム1の典型的な仕事です。

Nielsen Norman GroupのTherese Fessenden氏は、この研究を引きながら、第一印象の段階で自動的な処理を支える設計を勧めています。要点は次の3つです。

  • 重要なものを重要に見せる:サイズ・太さ・コントラストで視覚階層をつけ、ページの主役が一目でわかるようにする
  • 同じ強さのCTA(行動喚起ボタン)を並べない:主役のボタンが2つあると、どちらを押すべきかを考える手間が生まれ、直感だけでは進めなくなる
  • 何のサイトかを最初に言う:組織名と目的を目立つ位置に置き、「ここはどこだ」という不安を生まない

NG例は、ファーストビューにキャンペーンバナー・会員登録・商品一覧の3つが同じ強さ(例えば、同じボタンの大きさ。色も赤・黄色・オレンジなど同系色)で並んでいる画面です。目は動くのに、どこにも着地できません。

ポイント2:慣れたパターンを使う:ヤコブの法則とラベルの創作を避ける

ユーザーは、あなたのサイトで多くの時間を過ごしているわけではありません。他のサイトで身につけた操作の型を持ち込んで、あなたのサイトを使います。この考え方は「ヤコブの法則」として知られています。

慣れた型はシステム1で処理できます。逆に、独自すぎるUIは、その場でルールを学習させることになり、ユーザーに考える手間を強いることになります。

先ほど引用したNielsen Norman Groupの記事は、認知的緊張を増やすナビゲーションとして次の4つを挙げています。

  • 細くて横長の、マウスオーバーで開くメニュー:狙いを定める操作そのものが負荷になる
  • 独創的な名前のラベル:「サービス」を「ソリューション・ラボ」と呼ぶような創作は、意味の推測にシステム2を使わせる
  • 経路案内ページの重複リンク:同じ先へ行くリンクが複数あると、違いを考え始める
  • 刻みの細かすぎるスライダー:微調整のために、注意を注ぎ続けなければならない

デザイナーとしては、独自性を出したい気持ちもよくわかります。ただ、独自性はビジュアルやコンテンツで出し、操作の型は慣れたものに寄せるほうが、結果として「使いやすい」と評価されやすいと思います。

ポイント3:選択肢と装飾を減らす:ヒックの法則と認知負荷

選択肢が増えるほど、選ぶまでの時間は長くなります。「ヒックの法則」と呼ばれる考え方で、もともとは実験条件のもとで、選択肢の数(情報量)と選択反応時間の関係を示した法則です。「何個を超えるとシステム2に切り替わる」といった境目を示すものではありません。

それでも設計の指針としては十分に使えます。似た選択肢が増えて「どれが自分に合うか」を比べ始めた時点で、ユーザーの作業は直感の判断から比較検討へ移り、それだけ負担が増えるためです。

装飾も同じです。Nielsen Norman GroupのFessenden氏は、第一印象を損なわないための目安として、アクセントカラーは4色まで、フォントは2種類までにするよう勧めています。色やフォントが増えると、目は「これは何の違いを表しているのか」を無意識に処理し続けることになります。

実務では、次の3点を意識するとよいと思います。

  • 一画面一目的:その画面でユーザーにしてほしいことを1つに絞る
  • 選択肢は段階に分ける:12個のプランを一度に見せるより、「個人か法人か」で先に絞る
  • 色は役割で使う:アクセントカラーは「押せる」「注意」のように意味を固定し、飾りに使わない

ポイント4:読みやすさ=認知的容易性:コントラスト・文字サイズ・行間

文字が読みにくいと、ユーザーは「内容が難しい」と感じます。

これは認知的容易性の話で、読み取りに苦労した情報は、内容そのものの評価まで下がる傾向があります。つまり、薄いグレーの小さな文字は、単に読みにくいだけでなく、サービスの信頼感まで下げている可能性があります。

Nielsen Norman Groupが第一印象を損なう要因として「コントラストの低いテキスト」を挙げているのも同じ理由です。

デザイン上の判断としては、次のような場面で迷ったら「システム1のまま読めるか」を基準にすると決めやすくなります。

  • 本文の文字サイズを14pxにするか16pxにするか
  • 本文の色を真っ黒にするか、やわらかいグレーにするか
  • 行間をどこまで詰めるか

見た目の「上品さ」と読みやすさが衝突したときは、本文は読みやすさを優先し、上品さは余白や見出しで出す、という切り分けが有効です。

ポイント5:既定値とマイクロコピーで「考えなくていい」を作る

最後のポイントは、ユーザーが判断そのものをしなくて済むようにする工夫です。

人は既定値(デフォルト)をそのまま受け入れやすい傾向があります。フォームなどの選択画面やサービスでの設定画面で大半の人に最適な値を既定にしておけば、ユーザーはシステム1のまま先へ進めます。

ボタンやエラー文などの短い文章(マイクロコピー)も同じ役割を持ちます。

  • ボタンには結果を書く:「送信」より「見積もりを受け取る」のほうが、押した先を想像しなくて済む
  • エラーには次の行動を書く:フォーム入力時のエラーの際は「入力エラー」ではなく「電話番号はハイフンなしで入力してください」と表示させるとすぐにエラー原因を把握できる
  • フォームの入力例を添える:「例:090XXXXXXXX」があれば、形式を考えずに済む

ここまでの5つは、いずれも「ユーザーに考えさせない」ための設計です。ただし、考えさせないことが常に正しいわけではありません。次の章では、その逆の場面を見ていきます。


あえてシステム2を起動させるデザイン:確認・不可逆操作・同意

上の段落では、「ユーザーをシステム1のまま目的地まで運ぶ」スムーズな設計を記載しましたが、サービス設計は全てがシステム1設計で良いか?というと、そうではありません。

「直感的なUI」を目指すあまり、立ち止まるべき場面まで滑らかにしてしまうと、ユーザーは後悔する操作を一瞬で終えてしまうことにもつながります。

実はシステム1は速い代わりに、思い込みや勢いに流されやすいという弱点があります。だからこそ、取り返しのつかない操作の前では、意図的にシステム2を呼び出す必要があります。

削除・決済・送信前は「摩擦」を意図的に置く

システム2を起動させる手段は、要するに「摩擦」です。ただし摩擦の強さは、操作の重さに合わせて選ぶ必要があります。

操作の重さ例摩擦の置き方
軽い・取り消せる下書き保存・並び替え摩擦なし(即実行)
中程度・取り消せるメール送信・投稿取り消し猶予(送信後に数秒間のUndo)
重い・取り消しにくい決済・契約内容の要約を見せてから確定ボタン
不可逆・影響が大きいアカウント削除・全データ消去対象の名前を入力させて確認

一番下の「名前を入力させる」方式は、開発者向けサービスでよく見かける手法です。文字を打つという能動的な作業が、システム2を確実に起動させます。

逆に、下書き保存のたびに確認ダイアログが出る画面は、日常操作にまで摩擦を置いてしまった例です。摩擦が多すぎると、ユーザーは確認を読まずに「OK」を押す癖がつき、本当に必要な確認まで素通りされます。摩擦は希少にしておくからこそ効きます。

フォーム設計での使い分け:入口は軽く、重要な入力は分けて見せる

長いフォームは、システム1とシステム2の両方が同居する場所です。

考え方はシンプルで、「入口は軽く、重要な入力は分けて見せる」です。

  • 最初の一歩はシステム1で:メールアドレスだけで始められるようにする。項目は最小限にし、既定値と入力例で迷いをなくす
  • 金額と同意はシステム2で:料金・契約期間・自動更新の有無は、他の項目と分けて要約として見せる。読まずに済ませられる場所に置かない
  • 確定の直前に全体を見せる:入力内容の一覧を出し、「ここで一度立ち止まってください」というメッセージを画面の構造で伝える

「フォームは短いほど良い」とよく言われますが、正確には「システム1で済ませるべき部分は短く、システム2で確認すべき部分は省かない」です。

システム1を悪用しない:ダークパターンとの境界線

システム1の弱点を知ると、それを逆手に取ることもできてしまいます。

既定値を受け入れやすい性質を使って、有料オプションを最初からチェック済みにする。「残り3点」「あと10分で終了」といった偽の希少性で、比較検討をさせずに決済へ急がせる。解約ボタンだけ薄い灰色にして見つけにくくする。こうした手法は「ダークパターン」と呼ばれ、ユーザーに不利な選択を直感のうちにさせる設計です。

ダークパターンと「使いやすさ」の境界は、設計者の意図や善意では引けません。手法が似ているぶん、判断の軸は「ユーザーの側で何が妨げられているか」に置く必要があります。具体的には、次の4点を確認します。

  • 理解:何が起きるか(費用・期間・データの扱い)をユーザーが把握できるか
  • 選択:他の選択肢が同じ見やすさ・押しやすさで示されているか
  • 拒否:断る・スキップする操作が、進む操作と同じ手間でできるか
  • 変更:あとから設定を変える・解約する・取り消す手段があり、見つけられるか

既定値でおすすめプランを選んでおく設計は、他のプランが同じ見やすさで並び、いつでも変更できるなら、ユーザーの理解・選択・変更を妨げていません。既定値で不要なオプションを付けておく設計は、気づかなければ選択も拒否もできていないので、同じ手法でもダークパターン側に入ります。

補助的な自己点検として、「ユーザーがあとで仕組みを知ったとき、怒るだろうか」と自問するのも有効です。ただしこれは設計者の想像にとどまるので、最終的には上の4点で確認するのが確実です。


現場での使い方:システム1・システム2でデザイン判断を説明する

ここまでの内容は、理論として知っているだけではもったいないです。システム1・システム2は、デザインの現場で「説明の道具」として使うと真価を発揮します。使い方を3つ紹介していきます。

デザインレビューで「この画面はどちらのモード想定か」を言語化する

デザインレビューが「好みの言い合い」になってしまう場面は、現場ではありがちで多くの方が経験していると思います。

そこで、レビューの冒頭で、画面ごとに想定するモードを宣言してみてください。

  • 「この一覧画面は、考えさせずにスクロールして選ぶ画面です(システム1)」
  • 「この確認画面は、一度立ち止まって内容を読んでもらう画面です(システム2)」

宣言があると、レビューの問いが変わります。「このボタンの色は好きじゃない」ではなく、「システム1で使わせたい画面なのに、ボタンが2つ同じ強さで並んでいて迷う」という指摘になります。判断の基準が共有されるため、修正の方向も揃いやすくなります。

レビューで使える問いかけの例を挙げておきます。

  • この画面で、ユーザーが立ち止まる場所はどこか。それは意図した場所か
  • 初見のユーザーが、慣れた型で操作できる要素はどれか
  • 不可逆な操作の前に、摩擦は置かれているか。日常操作に余計な摩擦はないか

ユーザーテストで「システム2への切り替え」の兆候を観察する

ユーザーテストでは、タスクの成否だけでなく、システム2が起動した瞬間を観察すると、改善点が見つけやすくなります。

システム2への切り替えは、次のような行動として表に出ます。

  • 読み直し:同じラベルや説明文に視線が戻る
  • カーソルの迷い:ボタンの上で止まる、複数の要素を行き来する
  • 沈黙と発話の変化:それまでスムーズに話していた参加者が黙る、ラベルを声に出して読み始める
  • 画面外への視線:進行役に「これはどういう意味ですか」と聞く

これらは「わからなかった」という失敗の記録ではなく、「ここで認知的緊張が起きた」という設計の手がかりです。

第一印象を測る方法としては、Nielsen Norman Groupが紹介している「画面を短時間だけ見せて印象を答えてもらう」テストも使えます。50ミリ秒から数秒の範囲で表示時間を変え、何が伝わり、何が伝わらなかったかを聞く方法です。大がかりな準備がいらないので、社内の数人相手でも試せます。

AIツールにUIを作らせるときの要件に「システム1で完了できる」と書く

最後は、AIにデザインやコードを生成させる場面での使い方です。

AIツールに画面を作らせると、機能はそろっていても「全部が同じ強さで並んだ」画面が返ってくることがあります。要素の優先順位や、立ち止まらせる場所を、指示に書いていないためです。

そこで、要件にシステム1・システム2の語彙をそのまま使ってみてください。指示文の例を挙げます。

  • 「初見のユーザーが、システム1のまま(考えずに)申し込み完了まで進める導線にする。主役のボタンは1画面に1つ」
  • 「決済の直前だけシステム2に切り替える。料金・契約期間・自動更新を要約として見せ、確定ボタンをその下に置く」
  • 「削除は不可逆なので、対象名の入力による確認を入れる。それ以外の操作に確認ダイアログは置かない」

こう書くと、AIの出力は「どこを速く、どこを遅くするか」の意図を持った画面に近づきます。

Jevのような判断特化のAIが増えるほど、システムの中で機械が速く判断する場面は広がります。そのとき、人間が判断を残すべき場所を決め、そこで確実にシステム2を起動させる画面を設計するのは、デザイナーの仕事です。理論を語彙として持っていることが、AIへの指示の精度にそのまま効いてきます。


まとめ

あらためて整理すると、この記事のポイントは次のとおりです。

  • システム1は速い直感、システム2は遅い熟慮。脳の部位ではなく、人の振る舞いを説明するモデルとして使う
  • デザインとの接点は認知的容易性と認知的緊張。読みにくい・見慣れない・迷う場面では努力感が生まれ、直感だけでは進めなくなる。「認知負荷」は作業が求める負担の量を指す別の概念
  • AIモデルJevは「速い判断」に特化したモデル。分類名「System One」はカーネマンの『ファスト&スロー』に、モデル名「Jev」は経済学者ジェヴォンズに由来する。「速い判断と遅い推論を分ける」発想はUI設計と共通している
  • システム1を味方にする5つの設計ポイントは、視覚階層・慣れたパターン・選択肢と装飾の削減・読みやすさ・既定値とマイクロコピー
  • 削除・決済・同意の前は、あえてシステム2を起動させる。摩擦は操作の重さに合わせ、希少にしておく。ダークパターンかどうかは、ユーザーの理解・選択・拒否・変更が妨げられていないかで判断する
  • 現場では説明の道具として使う。レビューでのモード宣言、テストでの切り替え観察、AIへの要件文に語彙を組み込む

今回とくに印象的なのは、AIが判断を速く返す時代になるほど、「人間に判断を残す場所」の設計がデザイナーの仕事として重くなる、という点です。Jevの登場は、その流れを象徴する出来事だと、わたしは受け止めています。

まずは手元の画面を1つ開いて、「考えさせない場所」と「立ち止まらせる場所」を2色で塗り分けてみてください。塗り分けに迷った場所が、次に直すべき場所です。

最後までご覧いただきありがとうございました!


よくある質問(FAQ)

システム1とシステム2の違いを一言で言うと?

システム1は速く自動的に働く直感の思考、システム2は注意と努力を必要とする熟慮の思考です。日常の判断の大半はシステム1が担い、システム2は計算や比較検討など、必要なときだけ介入します。Webデザインでは、慣れた操作はシステム1、料金の比較や削除の確認はシステム2の担当と考えるとわかりやすいです。

『ファスト&スロー』はデザイナーも読んだほうがいいですか?

この記事の範囲は、第1部「二つのシステム」を読めば押さえられます。上下巻で長い本なので、全部を通読するより、第1部と「認知的容易性」「ヒューリスティック」を扱う章を優先すると、デザインに直結する知識が手に入ります。

直感的なUIにすれば、いつでもシステム1だけで良いのですか?

いいえ。取り消せない操作・金銭が動く操作・契約への同意では、あえてシステム2を起動させる設計が必要です。確認ダイアログ・内容の要約・対象名の入力といった摩擦を、操作の重さに合わせて置きます。摩擦をどこに置くかを決めること自体がデザインの仕事です。

AIモデル「Jev」はWebデザイナーが使うツールですか?

いいえ。Jevは開発者向けの判断特化モデルで、デザインツールではありません。ただし「速い判断と遅い推論を役割分担させる」という設計思想と、「確信度が低いときは人間に回す」という使い方は、画面設計で「どこでユーザーを立ち止まらせるか」を決める考え方と重なります。

システム1・システム2は、UXデザインのどの法則と関係しますか?

ヤコブの法則(慣れた型を使う)・ヒックの法則(選択肢を減らす)・視覚階層・認知負荷の考え方は、いずれも「ユーザーをシステム1のまま進めるか、システム2に切り替わらせるか」という軸で整理できます。個別の法則を暗記するより、この2軸で束ねておくほうが、現場で応用しやすくなります。


参照・外部リンク